弁護士としての独立を検討している人にとって一番心配なのが、独立してもうまくいかずに廃業してしまうことではないでしょうか。
弁護士の廃業数の推移に関する統計と、廃業する理由などを一緒に確認しましょう。
弁護士の年間廃業数について
何人の弁護士が毎年廃業をしているのかについては、日本弁護士連合会の弁護士白書という統計資料が参考になります。
この白書では毎年「登録換え・弁護士登録取消し件数」というものを公表しており、弁護士が登録を取消した件数のうち、
- 裁判官任官による請求
- 弁護士法17条1号:禁固刑以上の刑に処せられたもの
- 弁護士法17条3号:退会命令・除名
- 死亡
のほか
- 請求
による登録の取消しの数を公表しています。
この請求による登録の取消し数が廃業数と推測することができ、その統計は次のようになっています。
年度 | 請求による取消(件数) |
---|---|
2006 | 141 |
2007 | 182 |
2008 | 198 |
2009 | 206 |
2010 | 199 |
2011 | 262 |
2012 | 306 |
2013 | 345 |
2014 | 389 |
2015 | 332 |
2016 | 360 |
2017 | 358 |
2018 | 379 |
2019 | 342 |
2020 | 296 |
2021 | 360 |
※基本的な統計情報2016年版および2022年版の「登録換え・弁護士登録取消し件数」
新司法試験によって弁護士になった新60期が弁護士となったのが2007年以降です。
2006年に141件にとどまった弁護士の廃業は、2012年に300件を超えていることから、司法制度改革によって弁護士が増えたことで、請求による登録取消しの数に影響を与えていることが考えられます。
この10年の中では2020年の296人が最も少なく、2014年の389人が最も多いのですが、おおむね毎年300人~400人くらいの間で推移しているといえます。
修習期別の登録取消件数について
修習期別の登録取消件数については次の通りとなっています。
修習期 | A.弁護士数(女性) | B.請求者数(女性) | 各期の弁護士数に占める請求者の割合(女性) |
---|---|---|---|
69期以降 | 6,928(1,487) | 67(24) | 1.0%(1.6%) |
64期~68期 | 8,715(1,996) | 100(40) | 1.1%(2.0%) |
54期~63期 | 13,489(3,188) | 46(18) | 0.3%(0.6%) |
44期~53期 | 4,840(958) | 21(8) | 0.4%(0.8%) |
34期~43期 | 3,343(343) | 15(1) | 0.4%(0.3%) |
33期以前 | 5,100(345) | 96(5) | 1.9%(1.4%) |
合計 | 42,415(8,317) | 345 | 0.8%(1.2%) |
期別で最も多いのが、64期~68期の100人で、次に多いのが33期以前の96人です。
この数字から推測できることとして、
- 33期以前:高齢・健康上の理由による廃業
- 54期~69期以降:結婚・出産・育児を理由とする廃業
- それ以外の廃業理由
があると考えられます。
33期以降の廃業が多いのは、高齢であることや健康上の理由によるものが多いと推察できます。
54期から69期以降の廃業のうち、3割以上は女性であり、結婚・出産・育児に関係する廃業もかなりの数あることが考えられます。
それ以外の廃業についてはさらに考察する必要があります。
弁護士全体の廃業数増加の要因について
上述したとおり、弁護士全体の廃業の数は、2006年頃にくらべると増加をしているといえます。
その要因としては次の2つのことが考えられるでしょう。
弁護士間の競争の激化
司法制度改革により、弁護士の数が増えたことでの弁護士間の競争の激化は、廃業の一つの要因であると考えられます。
そこで、弁護士数と民事事件の5年ごとの件数の統計を見てみましょう
年 | 弁護士の数(弁護士白書より) | 民事・行政事件の新受(司法統計より) |
---|---|---|
1950(昭和25年) | 5,827 | 429,853 |
1955(昭和30年) | 5,899 | 827,659 |
1960(昭和35年) | 6,321 | 970,134 |
1965(昭和40年) | 7,082 | 1,255,547 |
1970(昭和45年) | 8,478 | 1,231,321 |
1975(昭和50年) | 10,115 | 1,076,665 |
1980(昭和55年) | 11,441 | 1,469,848 |
1985(昭和60年) | 12,064 | 2,548,584 |
1990(平成2年) | 13,800 | 1,715,193 |
1995(平成7年) | 15,108 | 2,411,360 |
2000(平成12年) | 17,126 | 3,051,709 |
2005(平成17年) | 20,224 | 2,712,896 |
2010(平成22年) | 28,789 | 2,179,358 |
2015(平成27年) | 36,415 | 1,432,322 |
2020(令和2年) | 42,164 | 1,350,237 |
弁護士の数が平成2年と比べても3倍以上となっているのに加え、過払い金案件が落ち着いたこともあり、全体の件数は減少傾向にあり、弁護士間の案件獲得のための競争は激化していると考えられます。
これに伴う弁護士の収入の変化についてもあわせて確認しましょう。
直近では2020年に行われた弁護士業務の経済的基盤に関する実態調査においてなされた、事業所得・給与所得について、次のような統計が示されています。
年度 | 平均値 | 中央値 |
---|---|---|
1980年 | 1,635万円 | - |
1990年 | 3,060万円 | 2,355万円 |
2000年 | 3,793万円 | 2,800万円 |
2010年 | 3,304万円 | 2,112万円 |
2014年(弁護士実勢調査より) | 2,402万円 | 1,430万円 |
2018年(弁護士実勢調査より) | 2,143万円 | 1,200万円 |
2020年 | 2,558万円 | 1,437万円 |
2020年に若干の改善を見せているものの2000年に3793万円あった平均の年収が、2020年には2,558万円に落ちています。
これらは平均や中央値のデータであり、案件獲得が上手くいかない弁護士はさらに収入が低くなっており、収入の低下から生活を満足に送れずに廃業に至ってしまう場合もあると考えられるでしょう。
司法試験合格者のキャリア選択が豊富になった
あわせて、司法試験に合格した人のキャリア選択が豊富になったことも、弁護士の廃業が増えた要因にあると考えられます。
昨今では、企業内弁護士(インハウスローヤー)・任期付公務員など、弁護士資格を有する人の活動領域は拡大しています。
弁護士白書2022年「組織内弁護士数の推移」によると、組織内弁護士の数は
年度 | 人数 |
---|---|
2012 | 771 |
2013 | 953 |
2014 | 1,179 |
2015 | 1,442 |
2016 | 1,707 |
2017 | 1,931 |
2018 | 2,161 |
2019 | 2,418 |
2020 | 2,629 |
2021 | 2,820 |
2022 | 2,965 |
と著しい増加傾向にあります。
また、任期付公務員の数も、
年度 | 人数 |
---|---|
2012 | 106 |
2013 | 120 |
2014 | 151 |
2015 | 187 |
2016 | 200 |
2017 | 198 |
2018 | 207 |
2019 | 238 |
2020 | 241 |
2021 | 252 |
2022 | 246 |
と、2012年から2.5倍以上の増加をしています。
弁護士資格を有している人が、弁護士のみならず多様なキャリアを選択できるようになっており、そのことが廃業数増加に繋がっている可能性があります。
独立弁護士が廃業してしまう理由
独立弁護士が廃業してしまう理由には次のようなものが挙げられます。
高齢・健康上の理由
高齢である・健康上の理由から廃業する、というものが挙げられます。
高齢で弁護士を引退することはもちろんですが、弁護士は精神的負担も強く、精神疾患などで執務ができなくなってしまうこともあります。
登録をしておくと弁護士会への会費の支払いが必要となるので、一度廃業をするということも考えられます。
妊娠・出産・育児のため
妊娠・出産・育児のために廃業する、というものが挙げられます。
子どもに手がかからなくなったら再度弁護士として復帰するような場合でも、登録をしたままだと弁護士会への会費が必要ですので、一度廃業することが多いでしょう。
顧客確保ができなかった
経済的な事情で多い廃業理由としては、顧客確保ができないが原因の場合があります。
弁護士としてのスキルが高いからといって、それが顧客獲得につながるとはいえません。
顧客獲得のためのマーケティングスキルは独立するにあたって重要であると考えておきましょう。
お金の管理ができていなかった
廃業する理由として、お金の管理が不適切なことが原因の場合があります。
充分な運転資金を確保せずに開業したような場合や、広告にかかる費用を考えずに安易に報酬単価を下げてしまった、案件の規模に比例しないような事務所を借りてしまった、などが原因で資金繰りが上手くいかなくなると、廃業せざるを得なくなります。
開業地域の選択を誤った
開業地域の選択を誤って顧客の獲得が上手くできない、事務所経費を下げられない、という理由での廃業も考えられます。
得意とする分野やその地域の競争事務所などを考えて開業する地域を選ぶ必要があります。
東京・大阪のような案件の多い地域だけでなく、地方の中核地域の場合でも大きな弁護士法人が支店を出して、競争が過熱しているような地域もあります。
開業地域の選択は入念にリサーチして慎重に検討する必要があるといえます。
まとめ
このページでは、弁護士の廃業について統計情報を見ながら検討しました。
弁護士が廃業する数は、司法制度改革による弁護士増員に伴って増加しています。
弁護士間の競争が激化している中で、事務所運営を効率よく行い、顧客満足度を高めることで差別化をはかることができます。
そのためのツールとして、ロイオズの導入を検討してみてください。