日本での裁判所オンライン化の動きについて

2022年07月13日

オンライン化

令和4年(2022年)4月21日には甲府地方裁判所及び大津地方裁判所で、令和4年(2022年)6月28日には知財高裁・東京地裁の一部・大阪地裁の一部でmintsという裁判所類をオンラインで提出するためのシステムが運用を開始します。 さらに、民事裁判手続をIT化する改正民事訴訟法が令和4年(2022年)5月18日参議院本会議で可決され、法案として成立しました。 このページでは、ここまでのオンライン化の流れや今後の展望などについてお伝えします。

日本の裁判所のオンライン化のこれまでの経緯は?

まず、これまでの裁判所オンライン化の流れを確認しましょう。

裁判所のオンライン化の検討

裁判所のオンライン化については、平成13年6月に取りまとめられた司法制度改革審議会の意見書の中で、「裁判所の訴訟手続(訴訟関係書類の電子的提出・ 交換を含む。),事務処理,情報提供などの各側面での情報通信技術(IT)の積極的導 入を推進するため,最高裁判所は,情報通信技術を導入するための計画を策定・更新 し,公表すべきである」と提言されたところから検討され始めています。

翌平成14年3月に最高裁判所が公表した「司法制度改革推進計画要綱~着実な改革推進のためのプログラム~」の中でも、「裁判所の訴訟手続,事務処理,情報提供などの各側面での情報通信技術(IT)の積極的導入を推進する計画を策定・公表するための所要の措置を講ずる」こととされました。
これに応じて法制審議会で調査が行われ、平成14年6月に「民事訴訟法改正要項中間試案」において、裁判所へのITの導入のための検討項目が掲げられ、意見公募手続に付されました。
その結果IT導入に賛成の意見が多数寄せられました。

平成16年法改正

平成16年の法改正により、民事訴訟法132条の10が新設されました。
民事訴訟法132条の10では、申立その他の行為を書面等で行うとされているものについて、最高裁判所規則によって電子情報処理組織を用いてすることができるとされています。

これにともなって支払督促については、「督促手続オンラインシステム」が導入され、平成18年9月以降段階的に運用を開始し、現在ではオンライン化がされています。
また、通常の民事訴訟も、平成17年4月から約4年間札幌地方裁判所でオンラインシステムを試用しました。これは実務に定着することなく2009年3月に運用が停止されました。

その後後述するように民事訴訟のIT化の流れがすすむ一方で、最高裁判所は民事訴訟法132条の10に基づく運用としてmintsの運用を開始しており、準備書面、書証の写し、証拠説明書など、民訴規則3条1項によりファクシミリで提出することが許容されている書面についてのオンライン提出が始まっています。

令和4年法改正へ

その後次のような流れによって民事手続きのIT化がすすみます。

  内容
未来投資戦略2017(平成29年6月9日)閣議決定) 迅速かつ効率的な裁判の実現を図るため、諸外国の状況も踏まえ、裁判における手続保障や情報セキュリティ面を含む総合的な観点から、関係機関等の協力を得て利用者目線で裁判に係る手続等のIT化を推進する方策について速やかに検討し、本年度中に結論を得る
裁判手続等のIT化検討委員会(平成30年3月30日) 裁判手続等のIT化に向けた取りまとめ-「3つのe」の実現に向けて-
未来投資戦略2018(平成30年6月15閣議決定) 「裁判手続等のIT化について、「司法府による自律的判断を尊重しつつ,民事訴訟に関する裁判手続等の全面IT化の実現を目指すこと」
民事裁判手続等IT化研究会(平成30年7月~令和元年12月) 「民事裁判手続等IT化研究会報告書-民事裁判手続のIT化の実現に向けて-」が取りまとめられる
成長戦略フォローアップ(令和元年6月21日閣議決定) オンライン申立、訴訟記録の電子化,手数料等の電子納付、ウェブ会議等を用いた関係者の出頭を要しない期日の実現等を目指し、2019年度中に法制審議会に諮問を行い、2022年中の民事訴訟法改正を視野に入れて取り組む。

以上のような経過を踏まえ、法制審議会民事訴訟法(IT化関係)部会が令和2年6月19日に第一回会議を開き、令和4年1月28日に「民事訴訟法(IT化関係)等の改正に関する要綱案」を発表します。
民事訴訟法等の一部を改正する法律案が令和4年3月8日に衆議院に提出され、令和4年4月20日に委員会で可決、4月21日に衆議院本会議で可決されます。
そして、令和4年5月17日に委員会で可決、5月18日に本会議で可決され、法律案は成立しました。

この法律案の概要は

  • 弁護士による申立てについては原則としてオンラインを利用
  • 訴訟記録の閲覧等の規定を整備する
  • オンラインでの送達の制度を創設
  • オンラインでの口頭弁論手続きの規定の整備
  • 6ヶ月以内の審理の終結

以上のようなことを内容としており、4年を超えない範囲で施行するとされているので、弁護士はオンライン化への対応が急務となります。

諸外国のオンライン化の現状

諸外国ではオンライン化はどのように進んでいるのでしょうか。

内容
アメリカ 1980年代に倒産事件の事件一覧表を電子化、事件記録の電子化がされる。 1990年代に提出書類のオンライン化に向けた整備がされ、オハイオ州北部地区裁判所にて、大規模なアスベスト訴訟において、初めて訴訟管理および電子裁判所ファイリングシステムであるCM/ECFが採用され、現在では一般的に利用されている。
イギリス 2017年4月よりCE-Fileの運用が開始され、商事事件・倒産事件・知財事件において電子申立てが義務化されている
ドイツ 2001年に民訴法改正され、電子送達、文書のファイル保管、電子メール等、訴訟記録の電子化が法律上認められている。
また、2022年までには、弁護士による訴訟は電子的に行うことが義務化されている。

資料請求はこちら 資料請求はこちら

今後の裁判のオンライン化の展望と弁護士がすべき対応

今後の裁判のオンライン化の展望と弁護士がすべき対応を確認しましょう

今後の裁判のオンライン化の展望

上述したように民事訴訟法の一部を改正する法律が令和4年5月18日に参議院で可決され法律として制定されています。
弁護士業務との関連でいうと

  • 訴状や準備書面の提出のオンライン提出
  • 口頭弁論期日のオンライン化
  • オンラインでの事件記録の閲覧

などに関する法整備やシステム整備が進むことになります。
現段階では主に民事事件に関するものがほとんどですが、刑事事件に関するオンライン化も整備されることになるでしょう。

裁判裁のオンライン化に備えた弁護士がなすべき対応

上述したように民事訴訟で弁護士が行うものについてはオンライン化が義務化されることになります。
そのため、オンライン化に備えて情報収集や設備投資が欠かせません。
最新の情報に常に気を配りつつ、裁判手続のオンライン化を見据えて事務所内の業務体制を少しづつ変えていく必要があります。

まとめ

このページでは裁判所のオンライン化についての状況についてお伝えしました。
令和4年の民事訴訟法の一部を改正する法律は、今後の裁判所のオンライン化の基本となるもので、弁護士業務としても訴訟手続のオンライン化が義務化されるなど、事務所の業務を見直す必要がある大きな改正です。
今後のオンライン化に対応するのと併せて、事務所内の業務の見直しを検討してみてはいかがでしょうか。
ロイオズは法律事務所に特化した業務管理のクラウドツールで、事務所業務の効率的な運用に役に立ちます。

参照サイト

https://www.courts.go.jp/saiban/online/mints/index.html
https://www.jiji.com/jc/article?k=2022051800155&g=pol
https://oneasia.legal/8491
https://www.kantei.go.jp/jp/singi/keizaisaisei/saiban/dai10/siryou1.pdf
https://www.moj.go.jp/content/001322978.pdf
https://www.moj.go.jp/shingi1/housei02_003005.html

人気記事